今どき毎日欠かさず家族揃って夕食を共にする家族なんてちょっと珍しい。しかし、こと香取家においては、こうした決まりと習慣が今日まできちっと守られている。
香取家の主人・卓(52歳)は不動産会社に勤める平凡なサラリーマン。妻の幸子(51歳)は専業主婦で、目下ポジャギ(韓国に伝わるパッチワーク)に打ち込んでいる。お嬢さんタイプの長女・詩織(22歳)は大学4年生。すでに就職も決まっている。そして次女の歌織(20歳)は目下スターを夢見てバンド仲間3人と活発に動き回っている。
会社帰りの夕刻、卓が駅前広場で「吉田拓郎」を歌う若者バンドに合わせて口ずさんでいた時、充という青年と知り合った。卓は我が家の夕食に充を誘った。
充は十年前の阪神大震災で家族を失い上京。一流の蕎麦打ち職人をめざして、毎日毎食コンビニ弁当の生活。そんな充の境遇に心優しい詩織が同情した。
ある日、卓は顧客である菊島夫婦から、老後の田舎暮らしに適した物件を頼まれて、山間の古い家付き土地を紹介した。菊島夫婦が気に入って売買契約が成立。早速、卓は湧き水の水路作りを提案し、率先して働いた。
充が持参した豆腐で寄せ鍋を囲む香取一家の夕食時。仲の良い詩織と充に、卓はひどく不機嫌になっていた。それに歌織もバンドがライブハウス【マークU】のオーディションに合格し、これまでのように家に早く帰ることができない。
【マークU】のオーナー・榊は、歌織が使っているギターに見覚えがあった。その昔、若い卓が愛用していたものだ。榊は、歌織が卓の娘と知って二度びっくり。当の榊は若い頃、【マークT】で卓とデュオを組んで歌っていたのだ。その頃、大学同級生の幸子が、このライブハウスでウェイトレスのアルバイトをしていて、卓と恋に落ちたという。歌織は両親の恋物語と、卓が歌を断念した事情も初めて知ることとなった。
詩織は手作り弁当を持って、充が修行中の蕎麦屋を訪ねた。その帰り道で充がプロポーズ。一方、歌織もライブハウスで榊や丸山、バンド仲間と夕食。帰宅しない娘二人に、卓は子供のように怒り、幸子に八つ当たりした。
妻の幸子からも自立を仄めかされて益々意気消沈。
翌日、「ボクに詩織さんを下さい」と勇気を振り絞って言う充に、卓は思わず手を挙げてしまった--。
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